これはとある女性 伴 花都子(バン・カトコ)の話。
彼女は片田舎で生まれ高校卒業と同時に都内の就職先に勤めるため都内近郊に引っ越し。
既に就職から5年が経ち仕事には慣れ後輩も出来た。
彼女は昔からロックバンドが好きで所謂バンギャを通り現在は古着っ子だ。
特に彼女の祖母はアメリカ在住でジャームス時代のパットスメアの追っかけをやっていたこともありパットスメアや彼に関するモノを見ると血が激(たぎ)った。
「都内にいると仕事終わりにも好きな古着屋に寄れるからいいな」
そのくらい古着という存在もそこにある空気も好きだった。この部屋にいながら何でも手に入る時代なのに、だ。
もちろん週末も仕事詰だった日々のストレスを発散に古着屋へ向かう。
「そうだ、今日は前からチェックしていた某有名店へ行ってみよう」
朝目覚めた時にそう思い、家のことを済ませ店へ向かう花都子。
イヤホンからはMeat Puppetsが流れ軽快に人に溢れる街中を抜けていく。
そして店につき「こんにちは〜」と挨拶と同時に入店。
そこまで広くない店内に並ぶ古着というよりヴィンテージのアイテム。
「こういう感じなのかぁ〜」と隅々までチェックする花都子。
ふと店を見回すと1枚のTシャツが目に入る。
「NirvanaのバンTだっ」そう彼女は思い手に取る。
しかし値札を見ると「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅ・・・え、クソたけー」
昨今のバンドTの球数の減少にともなる高騰とそれによる暴力的な値段に花都子は震え上がったのだ。
「・・・こんなの90'sジャイアントボディでもFakeだよっ」
根っからのバンドマン気質な彼女はその商業的な値段に驚愕しそそくさと店を出た。
彼女は帰りの道中に思いを巡らせた。
「Nirvanaのカートは自分が売れてしまったから自殺を選んだ。
その彼のTシャツが皮肉にも10倍〜20倍の値段で売られているのである。自殺した本人やバンドのスタイルも関係なく。
商業的になってしまった自分に幻滅して命を絶ったのに、だ。」
花都子は心のモヤモヤが晴れず親しい店員がやっているショップに向かい、今日の出来事を打ち明けた。
「花都子の気持ちもわかるけど、古着って定価じゃなくて相場だからね。しょうがないよ」
そんなことを言われ無理矢理にでも自分を納得させようとする花都子。
気を紛らわせようと店内を物色するもその気持ちは収まらず、店員もそれを感じ取っていた。
「すみません、グチを垂れ流してしまい」
そう言い店を出ようとする花都子。その時、店員がこう言い放った。
「そのヴィンテージのTシャツ買ったつもりでギターでも買ったら?」
" それだっ "
他人が見出した価値に大金叩くなら少しでもNirvanaに、いやパットスメアに近づこうと思ったのである。
パットスメアの追っかけだったのは祖母なのに、だ。
〜そして10年後〜
「私たちのワールドツアーはここ韓国から始まります〜」
歪んだギターとドラムロールで花都子たちバンド「White Sauce Macadamia Nuts(ホワイトソースマカダミアナッツ)」の全世界ツアーが幕を開けようとしている。
花都子はあれからギターを手にし、ピアノ、三味線にアコーディオンを使いこなす世界的に有名なマルチプレイヤーになっていたのだった。
「皆〜元気〜?」
「カムサハムニ、だ!!!!」